スポーツ中継で見える「バーチャル広告」とは?海外サッカーやMLBで進化する最新技術

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進化続けるグローバル広告の代表各「バーチャル広告」驚きの技術

海外サッカーのテレビ中継を観ていて、ふと違和感を覚えたことがありました。

あるプレイのリプレイ映像だったのですが、ピッチ脇の広告がリアルタイムと違っていたのです。

日本企業の広告だったはずが、リプレイ映像では海外企業の広告に変わっている…。この時、「バーチャル広告」という存在を初めて知りました。

それ以来、野球やラグビー、テニスなどの中継でも会場の広告表示を注意深く観るようになり、バーチャル広告の映像技術の進化に驚かされることが増えました。

メジャーリーグベースボール(MLB)では、大谷翔平選手をはじめ日本人選手が出る試合が中継されますが、バックネット下の広告など日本で観る映像には日本企業の広告が表示されます。

「メジャーの試合中継で日本語の広告って??」と思うのですが、実際現地では別の広告が掲出されています。日本のテレビ中継を観ている人だけには、日本企業の広告に差し替えられているのです。

MLBの中継画面

バーチャル広告は日本の中継では、日本企業の広告がバックネット下とマウンドに表示されている

しかも選手が前た立っていたり横切っても不自然に重ならず、まるで本物の看板のように見える・・・これが「バーチャル広告」のすごさです。

こんなすごい技術「一体いつから導入されて、どんな仕組みなのか?」

たいへん気になったので調べてみました。

バーチャル広告とは?

前述したMLBや海外サッカーの中継でよく見られる「バーチャル広告(Virtual Replacement Advertising)」は、「放送映像の中だけ広告を差し替える技術」です。

スタジアムにある実物の看板をベースに、テレビや配信映像では地域ごとに異なる広告を表示できます。

例えば

◆欧州向けには欧州企業、中国向けには中国企業、日本向けには日本企業の広告を表示できます。

◆現地観戦者は実物の看板広告を見ていますが、テレビ視聴者は差し替えられたバーチャル広告を見ることになります。

バーチャル広告は、「同じ試合でも国や地域ごとに違う広告が配信される」仕組みなのです。

サッカー中継の看板広告

※同じ場面でもAとBでは、広告の看板が違う。~配信される対象によって看板映像が変わっている

技術の仕組み

バーチャル広告はAIやAR(拡張現実)の応用技術で、カメラ映像をリアルタイムに解析し、広告ボードの位置や形を認識して差し替えます。

この仕組みは「バーチャル/仮想広告」「バーチャルペリメーター広告」「Virtual Replacement Perimeter Technology」などと呼ばれています。

  • システムはカメラからの映像をリアルタイムに解析し、
  • LEDボードやバックネット周辺の「位置と形」
  • カメラの揺れ・ズーム・パン
  • 選手や審判など前景オブジェクトの動き

などをトラッキングして、広告画像を「そこに実際にある板に貼りついているように」変形・合成します。

人物に自然にかぶらない理由

広告をそのまま「上描き」すると、人が前を通ったときに人の上に広告が乗って不自然になるので、バーチャル広告では人物などを「前景」、ボードを「背景」として分離する技術が使われています。

具体的には、

  • 事前にスタジアムの3D的な位置情報やカメラ位置をキャリブレーション
  • AIベースのセグメンテーションやディプス推定で、人・ボールなど手前にあるものを自動認識
  • 「背景(広告ボード)」だけを差し替え、前景はそのまま残す合成処理

という流れで、選手が前を横切っても、選手はきちんと手前に表示され、広告はその奥にあるように見えるようになっています。

選手に広告がかぶらない技術

左の写真では広告の画像が選手の身体の上に表示されてしまうが、右の写真はバーチャルの技術で選手にかぶることなく実際の看板に見える

このため、選手が前を横切っても広告は奥にあるように見え、違和感なく視聴できます。

これを寸分たがわずリアルタイムで行うのですから、感動ものですね。

導入の歴史

バーチャル広告はいつごろからスポーツ中継に取り入れられたのでしょう。

バーチャル広告の走りとして言われるのが、アメリカンフットボールの中継で、攻撃の目標となる「ファーストダウン」地点を表わすためにフィールド上にラインを表示したのが始まりといわれています。

ファーストダウンの位置を示す線

※テレビなどの中継では、ファーストダウンを示すラインが画面上に表示される

また、水泳競技の中継で表示される世界記録や日本記録を示すラインも同じ仕組みで、この頃は「CG合成」と言われることが多かったと思います。

では、本格的に「バーチャル広告」が始まったのはというと、

  • 1990年代後半:北米や欧州で試験的に導入。
  • 2006年ドイツW杯:地域別広告差し替えが本格普及。
  • MLB:2001~2002年のワールドシリーズ「ヤンキース」VS「ダイヤモンドバックス」戦で初導入、その後ポストシーズンや国際放送で拡大していきます。

日本でもJリーグやプロ野球で試験導入が進み、2021年にはソフトバンクが「Virtual Advertising Service」を開始しました。

日本のプロ野球で目立たない理由

MLBや欧州サッカーはグローバル配信が前提で、広告差し替えによる収益最大化が重要になります。

特にサッカーの中継では、世界に配信する大会が多く、グローバルに展開する企業の広告が多く集まり、多額の収益を上げることができます。

一方、日本のプロ野球は国内視聴が中心で、物理看板や放送枠で十分に収益化できてきたため、バーチャル広告の普及は限定的です。

ただし、一つの広告枠に複数の広告を入れられることは、その分、複数の企業へアプローチできるので、メリットは髙いと思われます。

総務省や文科省のレポートでも「スポーツ×テクノロジー」の有望分野としてバーチャル広告が挙げられているようです。

まとめ

バーチャル広告は、スポーツ中継の「広告の見え方」を根本から変える技術です。視聴地域ごとに広告を差し替えることで、スポンサーは効率的にターゲットへリーチでき、放送局は収益を最大化できます。

今後、日本でもさらに普及が進めば、テレビで観るスポーツの「当たり前」がまた一つ変わるかもしれませんね。

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